今週のお題「最近おもしろかった本」。
私はリトルプレスなどの少部数だけどピカリと光るような個性的な本が好きで、つい先日も気になっていた本を購入しました。
やさしい雰囲気の表紙のデザインとは裏腹に、ちょっと挑発的なタイトルからしてツボな本。それは
くどうれいん著
「わたしを空腹にしないほうがいい~改訂版~」
2018年8月19日 発行
BOOKNERD 出版
税込販売価格1000円
この表紙からしてもう!ほかほかの鯛飯のような精密な挿絵。
胃袋がグッとなりそうです。
著者であるくどうれいん氏は1994年生まれの小説家であり、歌人、俳人でもあります。初の中編小説「氷柱の声」では第165回芥川賞候補になりました。惜しくも受賞は逃しましたが、現在も意欲的に作品の制作、雑誌への寄稿など活躍をされています。
「わたしを空腹にしないほうがいい~改定版~」とは
・概要
俳句をタイトルにした食にまつわるエッセイ集。6月の1か月間の日記形式で書かれています。リトルプレスでは異例の1万部以上の発行部数に。
出典:くどうれいん(工藤玲音)公式ホームページサイトより
リトルプレスやZINEって、個人的な要素のある発行の仕方が主なのですが、この作品は途中から人気を博して異例の発行部数になったようです。
・「わたしを空腹にしないほうがいい」の面白さ
ページを繰っていくと2016年の6月で始まる日記。その主である一人暮らしの女学生の、日々の暮らしと作り出されるお料理の描写が淡々とつづられていきます。
日記形式でありながらそれぞれの日のタイトルは俳句で始まるのも面白い。
私は俳句には疎いのですが、ここには著者の堅苦しくない自由な感性を感じます。
ココロにすっと入っていくというような、そんな一句。
そうしてつづられていく日記の中の食べものが、読み手の食欲をそそります。
ひとりぐらしの女学生の悩める青春のなかで作られていく一品。
時折でてくる「菜箸」は、生きるための「武器」にも思えてしまいます。
菜箸を握ろう。わたしがわたしを空腹にしないように。うれしくても、寂しくても、楽しくても、悲しくても。たとえば、ながい恋を終わらせても。
出典:「わたしを空腹にさせなほうがいい~改定版~」より
一日いちにちと読み進めていくうちに、はっと気が付くとグウとお腹が鳴りそうに。
そしてまた若い日記の主のみずみずしい表現と、時折でてくるぷっと笑ってしまうような面白さが彩りを添えています。
お腹が空いていても満腹でも美味しくて、読み終えたあとは「私も前を向こう!」と思わせてくれる、そんな一冊です。