いまはなき中銀カプセルタワービルを訪れたのは2021年の9月と12月のことでした。備忘録としてここに写真とともに記録を残しておこうと思います。
東京都中央区銀座8丁目にあったこの中銀カプセルタワービルは、建築家・黒川紀章氏が設計したカプセル型・ツインタワーの建築です。1972年に竣工されたビルで、新陳代謝をあらわすメタボリズムという考えに基づいた集合住宅でした。
それはユニットごとに交換ができるという新しい発想だったのです。まるで建築が生きているかのような、斬新な考えですよね。
私が初めてこのビルを見たのは多分小学校低学年の時で、旅行の行き帰りに首都高から眺めたのを覚えています。
その時はこの風変わりな建築物がとても奇妙で、怖さを感じたものでした。
行きで見て驚き、帰りもまた見て怖くなり…大人になってからふっと「そういえばあの建物はなんだったのだろう?」と思い出して調べたら、この中銀カプセルタワービルだったのです。
改めて知った時はすでに老朽化がかなり進んでいたのですが、まだ分譲されていた部屋もありました。私ももしかしたら住めるかも?とも思いましたが、結局住むには至らず…。
そうしているうちについに取り壊しが決定してしまい、せめて中の様子だけでもこの目に焼き付けておきたいと思いました。取り壊し前の2021年12月、ビル内の見学ツアーに申し込み訪問することが叶いました。
首都高の脇にそびえ立つカプセルタワービルを望む。
玄関前は花壇の植木がもっさり。
入り口の様子。カフセルタワーヒルになってますね。ここにもアロエがもっさり。
老朽化が進んでいるため、建物がネットで覆われていました。




当時は美しいオレンジカラーだったのでしょう。


12階から下を見てみる。水たまりやさび付きなど、50年の劣化は大きい。




部屋の外のパネルがすでに壊れて崩れているところもありました。
空調設備が機能しなくなった部屋は夏はとても暑くて冬はとても寒かったそうです。経年劣化で水が出なくなったりシャワーのお湯がでない、雨漏りがするなどのトラブルも頻出していたとのことですが、カプセルを積み重ねるようにして建築されており、カプセルをどかすことができなかったために工事も容易ではない状態だったとのことでした。
新陳代謝=カプセルを替えられるというコンセプトであったものの、一度もカプセルを替えたことはなかったそうです。


そしていよいよそのカプセル室内のなかへ...
カプセルの中は意外と広く感じました。
まるで宇宙船一室にでもいるかのような空間。
一つのカプセルの中には色々なシステムがつまっています。トイレとお風呂場のユニット、建付けの扉付き棚やデスクがあります。
そして私がいいな!と思ったポイントはこちら!じゃん!!↓
どうですか、ここ!私はこのSONY製のオーディオ機器たちにシビれました!なんていうカッコよさ!!
当時はオプションでいろいろつけられたとのこと。
こちらは確かフル装備の状態。テレビやダイヤル式電話もついてます!なにかの基地!?


この部屋で音楽やラジオを聴きながら仕事の続きをしたり、はたまた都会の夜景を見ながらのんびり過ごしたりしていた方もいたでしょう。
部屋の窓はまんまるなところがお洒落。しかも大きい!カーテンの代わりにこの特殊シェード。ナイスなデザインです。
窓の下には首都高が見えます。
ネットが無かったらもっとよく見えたでしょう。


この小さくも近未来感あふれる空間で、どんな夢が見れたのでしょうか。
パンフレットにはビジネスカプセルというタイトルが。
このビルが出来た1972年頃は昭和の高度成長期の終わりの頃と言われていますが、バリバリのビジネスマン向けの別宅的な役割も担っていた中銀カプセルタワービル。
家に帰らず、ここで一仕事というわけです。ひえ~!
昔やってた栄養ドリンクのCMを思い出します。
「24時間戦えますか?ビジネスマン~♪」
高度成長期はそういうことがアリだった時代なのか?24時間ではないにしろ、様々な分野で困難を乗り越えてきた人々がいて、いまの日本経済が在るのは間違いありません。
ビジネスカプセルの用途
- ビジネスマンの都心の基地として
- 会社・官庁・組合等の東京連絡所として
- オフィスとして
- 書斎として
- ホテル代りの宿泊又は、待合わせ場所として
- 顧客用の宿泊所として
- グループのミーティングルームとして
- 夜業の多いサバーバン社員(郊外居住者)用のビジネス目的のマンシオンとして
- その他都心の別荘ルームとして
中銀マンシオン(銀座) パンフレットより引用
室内はキッチンや洗濯機置き場はなく、仕事して寝るだけの空間なようです。
掃除やベットメーキング、コピーや貸しタイプライター・計算機もあり、テレホンメモなる外出時の電話番のようなサービスもやっていたそうです。(昔は留守番電話機能はない時代だったのですね)
ビル管理総支配人をはじめ、ビジネスサービスを担うカプセルレディ、夜間防災センターを管理するフロントマン、空調などの設備を担当するカプセルエンジニア、掃除やベットメイキングを担当するルームキーパーなど様々な職種がサービスを提供していたとのこと。ホテル並み、いやそれ以上だったかもしれません。
ビジネスマンが仕事に集中できるように至れり尽くせりな機能を果たしていたビル。
ホテルみたいだけど、自分だけの秘密基地みたいなそんな空間。
私だったらきっとはかどらない...と思います。たぶん。
解体が進んでいる現在、カプセルの一部は買い取られているようです。また美術館などで展示されているところもあり、埼玉県立近代美術館にはカプセルのモデルルームが展示されています!
あの秘密基地のようなカプセルルームを見てみたい、と思ったら見ることができますよ。いつでも会えるなんて、なんて素敵なんだ...
もう失われてしまった建築に思いを馳せながら、芸術散歩もいいかもしれませんね。
気になる方はぜひ。
今日のときめきBGM
時をかける少女 / 原田知世